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最高裁判所第一小法廷 昭和34年(オ)950号 判決 1962年7月19日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人大島正恒の上告理由一、二について。

原判決は、前野茂が昭和一二年四月一日並木代右衛門から本件土地を賃貸期間昭和三二年三月末日までの約定で賃借し、右並木代右衛門は昭和二〇年一二月二四日死亡し、その相続人たる並木良成が本件土地所有権および賃貸人の地位を承継したが、並木良成は、昭和二五年一二月三〇日上告人に本件土地を売却し、かつ右賃貸借における前野茂に対する賃貸人の地位を譲渡し、上告人は前野茂と合意の上昭和二九年六月分より右賃貸借の賃料を一ケ月一五〇〇円に改めた旨の事実を確定している。そして、原判決は、更に、被上告人らの被相続人前野茂が昭和一二年四月一日訴外並木代右衛門より本件土地を賃借するに当たつて原判示のような特約がなされ、右特約は賃貸人並木代右衛門の死亡後は、その相続人たる並木良成と賃借人前野茂との間において存続したものと認められるけれども、前野茂は昭和二三、四年頃賃貸人たる並木良成に対し、当時本件土地上に存在した本件バラツクを早晩とりこわしてその跡に現存するような本建築の建物を建てたい旨申入れ、並木良成はこれを承諾したことが認められる旨を判示しているのである。しからば、右賃貸借契約上の後主たる上告人は、前主たる並木良成が、前野茂に対して、本件バラックを取りこわし、そのあとに本件建物を建築することを承諾した状態の下に、賃貸人たる地位を引きついだことになるのであるから、前野茂は、後主たる上告人から改めて右の承諾を得ないで本件建物を建築したからといつて、何ら本件土地賃貸借契約上の義務に違反するものではない。そして、上告人は前記のように並木良成との契約により、本件土地の賃貸人たる地位を承継したものであり、前野茂も上告人と、賃貸借の賃料につき合意をし、上告人が賃貸人の地位の譲渡を受けた事実を認めているのであるから、本件においては建物保護法の登記の有無は問題とはならないのである。それ故、原判決には所論の違法は認められない。

同三について。

契約をもつて堅固でない建物の所有を目的とする借地権の存続期間を二〇年と定めたときは、借地権は、借地法二条一項の規定にかかわらずその期間の満了により消滅することは同条二項の規定するところであるから、右期間の満了前に地上建物が朽廃した場合でも、借地権はそのことにより消滅するものではない。ところで、原判決の確定したところによれば、本件土地は、昭和一二年四月一日に、賃借期間昭和三二年三月末日までの約定で、賃貸借契約がなされているのであるから、本件土地の借地権は、右期間の満了前に地上建物が朽廃したからといつて、当然に消滅するものではない。所論は、前判示と異なる独自の見解に立脚して原判決を非難するものであつて、採るを得ない。

同四について。

原判決は、昭和三二年三月末日本件賃貸借の存続期間満了後前野茂が本件土地使用を継続したことに対し、上告人は遅滞なく異議を述べたとの事実を認定し、右異議につき上告人に正当の事由がない旨を判示して上告人の本訴請求を排斥したものであること判文上明らかである。従つて、原判決としては、上告人が本件賃貸借の更新請求を受けた時期の当否について、特に判示する必要のないことである。それ故、原判示には所論審理不尽の違法は認められない。

同五について。

原判決は、被上告人ら、上告人双方の事情を斟酌した上、上告人の異議につき正当の事由がない旨を判示したものであつて、右判断は肯認できる。所論は、ひつきよう原審の裁量に属する証拠の取捨、判断、事実の認定を非難するに帰し、採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 高木常七 裁判官 斉藤朔郎)

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